
ハニカムパネルは、その驚くほどの軽さと高い剛性から、航空宇宙分野をはじめ、鉄道車両、建築材料、産業機械など、様々な分野で活用が広がっている注目の素材です。しかし、多くの優れたメリットを持つ一方で、採用を検討する際には知っておくべき欠点や注意点も存在します。メリットだけを見て採用を決定すると、加工段階や実用段階で思わぬ問題に直面する可能性があります。
この記事では、ハニカムパネルの採用で後悔しないために、まず理解しておくべき7つの欠点を深掘りし、それぞれの対策や選定のポイントについて詳しく解説します。
ハニカムパネルの基本と大きなメリット
ハニカムパネルは、ハチの巣のような正六角形の集合体である「ハニカムコア」を、アルミニウムやFRPなどの薄い2枚の「表面材(スキン材)」で挟んだサンドイッチ構造の板材です。この独特の構造により、「軽量」「高剛性」「高強度」という大きなメリットが生まれます。| メリット | 内容 |
|---|---|
| 軽量性 | 内部のほとんどが空洞のため、同じ剛性の金属板などと比較して、重量を大幅に削減できる。 |
| 高剛性・高強度 |
・サンドイッチ構造により、少ない材料で高い曲げ剛性を実現。 ・面方向への圧縮強度にも優れている。 |
| 衝撃吸収性 | 外部からの衝撃エネルギーをハニカムコアが吸収・分散させるため、優れた衝撃吸収性能を発揮。 |
| 断熱性・吸音性 | 内部の空洞が空気層となり、熱や音の伝わりを抑制するため、断熱材や吸音材としても利用される。 |
知っておくべきハニカムパネルの7つの欠点
多くの利点を持つハニカムパネルですが、その特殊な構造ゆえの欠点も存在します。ここでは、設計や製造の現場で問題となりやすい7つのポイントを解説します。局所的な衝撃に弱い
ハニカムパネルは面全体にかかる力には非常に強い一方、工具の落下や小石の衝突といった局所的な「点衝撃」には弱いという欠点があります。表面材が薄いため、鋭利なものが当たると表面が凹みやすく、内部のハニカムコアが座屈(破壊)してしまうことがあります。一度表面が凹むと、その部分の剛性が著しく低下し、内部のコアまで損傷が及ぶと修理は非常に困難です。そのため、頻繁に物がぶつかる可能性のある場所や、人が乗る床材として使用する場合には、表面材の材質や厚さを工夫するなどの対策が求められます。
切断や穴あけなどの加工が難しい
内部が空洞であるハニカムパネルは、切断や穴あけといった後加工が難しい点もデメリットです。のこぎりやドリルで加工しようとすると、表面材にバリが出やすかったり、切断面でコアがつぶれてしまったりすることがあります。また、曲げ加工にも適していません。無理に曲げようとすると表面材にしわが寄ったり、コアと表面材が剥離したりする原因となります。高精度な加工を行うためには、ウォータージェットやレーザーカッターといった専用の設備や、加工ノウハウが必要になる場合があります。
水分や湿気による影響を受けやすい
ハニカムコアの材質によっては、水分や湿気が強度低下の大きな原因となります。特に、段ボールなどの紙を素材とする「ペーパーハニカムコア」は、湿気を吸うと強度が著しく低下し、カビが発生することもあります。 アルミニウム製の「アルミハニカムコア」も万能ではありません。パネル内部で結露が発生すると、水分によってアルミが腐食する可能性があります。また、表面材にカーボンなど異なる種類の金属を使用した場合、異種金属接触腐食を引き起こすリスクも考慮する必要があります。製造コストが比較的高価になる
ハニカムパネルは、ハニカムコアと2枚の表面材を接着剤で貼り合わせるという、比較的複雑な工程を経て製造されます。この製造工程の手間や、使用する接着剤が高価であることなどから、一枚の板材である金属板や樹脂板と比較して、材料コストが高価になる傾向があります。特に、航空宇宙分野などで使用される高性能なハニカムパネルは、材料費も加工費も高額になります。そのため、製品に求められる性能とコストのバランスを十分に比較検討することが重要です。
パネル同士の接合や固定に工夫が必要
中空構造であるハニカムパネルは、ネジやボルトによる接合・固定が難しいという欠点も抱えています。内部が空洞のため、ネジを直接打ち込んでも十分な固定強度(引き抜き強度)が得られません。ハニカムパネルを部材として使用するには、ネジを固定したい箇所に「インサートナット」と呼ばれる金具を埋め込んだり、エッジ部分にフレームを取り付けたりといった、特別な後処理が必要となります。これらの処理は追加のコストと工数を要するため、設計段階から接合方法を考慮しておく必要があります。
熱による変形や劣化のリスクがある
使用する材料によりますが、熱による影響も無視できません。例えば、ポリプロピレンなどのプラスチック(樹脂)製ハニカムコアは、金属に比べて耐熱性が低く、高温環境下では変形や強度の低下を招く可能性があります。 また、アルミハニカムコアとCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製の表面材を組み合わせた場合など、コアと表面材の熱膨張率が大きく異なると、温度変化によってパネルに反りや歪みが生じることがあります。一度破損すると修理が困難
局所的な衝撃に弱いという点と関連しますが、ハニカムパネルは一度破損すると修理が非常に難しい材料です。表面の小さな凹み程度であればパテなどで補修できる場合もありますが、衝撃が内部のハニカムコアにまで達していると、部分的な修理で元の強度を回復させることは困難です。多くの場合、損傷したパネルは部分修理ではなく、パネル全体を交換することになります。これは、修理コストやメンテナンス性の観点からは大きなデメリットと言えるでしょう。
欠点を克服するための対策と選定ポイント

ここまでハニカムパネルの欠点を解説してきましたが、これらの課題は適切な対策を講じることで克服、あるいは影響を最小限に抑えることが可能です。
| 欠点 | 対策・選定ポイント |
|---|---|
| 衝撃への弱さ |
・表面材の材質を強度のあるもの(FRP、金属)にする ・表面材の厚さを増す ・コア密度を高く、セルサイズを小さくする |
| 加工の難しさ |
・メーカー推奨の加工方法(ウォータージェット等)を採用する ・加工を前提とした専用の工具や治具を用意する |
| 水分・湿気への弱さ |
・使用環境に合わせてコア材質(樹脂、アルミ)を選定する ・パネル端面をシール材で密閉し、水分の侵入を防ぐ |
| コストの高さ |
・軽量化による輸送費削減など、トータルコストで評価する ・要求性能を満たす範囲で、安価な材質(ペーパー等)を検討する |
| 接合・固定の難しさ |
・設計段階でインサートナット等の埋め込み処理を計画する ・接着剤による接合や、専用のフレーム・締結部品を使用する |
| 熱への弱さ |
・使用温度範囲に適したコア材質・表面材・接着剤を選定する ・熱膨張率の近い材料を組み合わせる |
| 修理の困難さ |
・交換を前提としたユニット設計にする ・衝撃が加わる可能性のある箇所への使用を避ける |
用途に適したコア材質と表面材を選ぶ
最も重要なのは、製品が使用される環境や求められる性能に合わせて、最適な材料の組み合わせを選ぶことです。例えば、湿度の高い水回りで使用するならペーパーコアは避け、ポリプロピレンなどの樹脂製コアやアルミコアを選定すべきです。コストを最優先する内装材などであれば、ペーパーコアが有力な選択肢となります。表面材も同様に、強度、耐食性、意匠性など、何を重視するかによって選定します。コア密度やセルサイズを調整する
同じ材質のハニカムコアでも、その密度やセルの大きさ(セルサイズ)によって強度は大きく変わります。一般的に、コアの密度を高く(使用する材料を多く)したり、セルサイズを小さくしたりするほど、圧縮強度やせん断強度は向上します。衝撃強度が特に求められる箇所には、高密度・小セルサイズのハニカムコアを選定することで、欠点である衝撃への弱さをカバーできます。適切な加工方法と接合技術を採用する
ハニカムパネルの加工や接合には、特有のノウハウが必要です。採用を検討する際は、材料メーカーや加工業者に相談し、推奨される加工方法や接合技術について事前に情報を得ることが不可欠です。設計段階で、どこに、どのようにして固定するのかを明確にし、必要なインサート処理やフレーム設計を盛り込んでおくことで、後工程でのトラブルを防ぐことができます。【関連記事】アルミハニカムパネルの加工相談
トータルコストで費用対効果を判断する
ハニカムパネルの材料費は他の板材に比べて高価かもしれませんが、その軽量性がもたらすメリットを総合的に評価することが重要です。例えば、製品が軽量化されれば、輸送コストの削減や、自動車・鉄道車両の燃費向上に繋がります。また、建築現場で取り扱うパネルが軽くなれば、作業員の負担軽減や工期の短縮にも貢献するかもしれません。初期コストだけでなく、製品ライフサイクル全体で見た「トータルコスト」で費用対効果を判断する視点が求められます。ハニカムパネルの種類別メリット・デメリット比較

ハニカムパネルはコアの材質によって特性が大きく異なります。代表的な3つの材質について、メリットとデメリットをまとめました。
| コア材質 | メリット | デメリット(欠点) |
|---|---|---|
| アルミニウム |
・軽量で高い剛性・強度を持つ ・不燃性で耐熱性が高い ・リサイクルが可能 |
・コストが非常に高い ・結露や異種金属接触による腐食のリスクがある ・加工が比較的難しい |
| ペーパー(紙) |
・コストが非常に安い ・軽量で加工が容易・環境負荷が少ない |
・水分や湿気に極端に弱い ・強度が他の材質に比べて低い ・耐熱性や耐火性がない |
| 樹脂(プラスチック) |
・耐水性、耐薬品性に優れる ・断熱性、衝撃吸収性が高い ・成形自由度が高い |
・耐熱性が低い ・材質によっては燃えやすい ・紫外線で劣化する場合がある |
まとめ:欠点を理解しハニカムパネルを最大限に活用しよう
ハニカムパネルは、「軽量」「高剛性」という他の素材にはない優れた特性を持つ、非常に魅力的な材料です。しかし、その一方で、衝撃への弱さ、加工の難しさ、コストなど、採用前に必ず理解しておくべき欠点も存在します。重要なのは、これらの欠点を正しく認識し、用途や要求性能に合わせて適切な材質・仕様を選定し、正しい設計・加工を行うことです。本記事で解説した欠点と対策を参考に、ハニカムパネルのポテンシャルを最大限に引き出す材料選定を進めてください。
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