
製品開発や部品製造の現場で「ビレット」という言葉を耳にしたことはありませんか。金属材料の一つであることは知っていても、「インゴットや鋳造品と何が違うのか」「どのような特長があるのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。ビレットは、自動車から航空機、建築材料に至るまで、現代の製造業に欠かせない重要な中間製品です。
この記事では、ビレットの基本的な意味から、製造方法、優れた特長、鋳造や鍛造との違いについて、初心者にも分かりやすく解説します。この記事を読めば、ビレットに関する体系的な知識が身につき、ご自身の業務における材料選定の際に、自信を持って判断できるようになるでしょう。
ビレットとは?基本的な意味を解説
ビレットとは、金属の塊である「インゴット」を、圧延(あつえん)や鍛造(たんぞう)といった方法で加工し、棒状や角柱状にした中間製品(半製品)のことです。「鋼片(こうへん)」とも呼ばれます。このビレットをさらに加工(押出、鍛造、切削など)することで、パイプや棒、自動車の部品といった最終製品が生み出されます。つまり、製品になる前段階の材料と理解すると良いでしょう。一般的には円柱形や四角柱の形状をしており、その品質が最終製品の品質に直結するため、製造には高い精度が求められます。
インゴットとの違い
ビレットとよく比較されるものに「インゴット」があります。インゴットは、鉱石から精錬した金属を鋳型に流し込んで固めただけの塊です。内部の結晶組織が粗く不均一で、気泡などが含まれていることもあるため、そのままでは製品加工に適していません。一方、ビレットはインゴットを加熱し、圧力をかけて圧延・鍛造することで作られます。この工程により、内部の粗大な組織が破壊されて緻密で均一な結晶組織に整えられ、強度や靭性(ねばり強さ)といった機械的性質が向上します。つまり、インゴットは「素材」、ビレットは製品加工用に品質を高めた「材料」という違いがあります。
項目 | インゴット | ビレット |
---|---|---|
定義 | 精錬した金属を鋳型で固めた塊 | インゴットを圧延・鍛造した中間製品 |
形状 | 塊状 | 円柱、角柱状 |
内部組織 | 粗く不均一 | 緻密で均一 |
用途 | ビレットやスラブなどの中間製品の原料 | 押出、鍛造、切削加工用の材料 |
ビレットの主な材質
ビレットは様々な金属で製造されますが、代表的なものには以下が挙げられます。・アルミニウム合金:軽量かつ高強度で、耐食性にも優れるため、自動車のホイールや航空機の構造部品、建材サッシなど幅広い用途で利用されます。6000系や7000系といった合金が有名です。
・鉄鋼(炭素鋼、特殊鋼):建築用の鉄筋やH形鋼、機械部品など、高い強度が求められる分野で広く使われます。
・銅合金:電気伝導性や熱伝導性に優れるため、電子機器の配線や接続部品、熱交換器などに使用されます。
・チタン合金:超高強度で耐食性、耐熱性に優れるため、航空機のエンジン部品や医療用のインプラントなど、過酷な環境で使用される製品に採用されます。
ビレットの製造方法
ビレットは、最終製品に求められる品質や特性に応じて、様々な方法で製造されます。ここでは、代表的な製造方法を3つ紹介します。連続鋳造法
連続鋳造法(れんぞくちゅうぞうほう)は、現在最も一般的なビレットの製造方法です。溶解した金属(溶鋼など)を「タンディッシュ」と呼ばれる容器から、水冷された鋳型へと連続的に注ぎ込みます。金属は鋳型を通過する間に急速に冷却・凝固し、連続的に引き抜かれていくことで、長い棒状のビレットが効率的に製造されます。この方法により、品質の均一性が高く、生産性に優れたビレットの大量生産が可能になります。押出加工
押出加工は、特にアルミニウムビレットの加工でよく用いられる方法です。ビレットを約500℃の高温に加熱して柔らかくし、「ダイス」と呼ばれる金型を通して高圧で押し出すことで、金型の穴と同じ断面形状の長い製品(形材)を成形します。この方法は、複雑な断面形状の製品を効率的に製造できるのが特長です。例えば、アルミサッシのような複雑な形状は、この押出加工によって作られています。
*アルミの押出工程の詳細はこちらです
鍛造加工
鍛造加工は、金属をハンマーやプレス機で叩いたり、圧力をかけたりして成形する方法です。ビレットを加熱し、金型(鍛造型)に入れて高圧で圧縮することで、内部の結晶粒がさらに微細化し、整えられます。これにより、金属の強度や靭性が大幅に向上し、非常に高強度な部品を製造できます。航空機のエンジン部品や自動車の足回り部品など、極めて高い信頼性が求められる重要保安部品は、この鍛造加工によって作られることが多くあります。ビレットが持つ主な特長

ビレットが様々な産業で重宝されるのは、その優れた特長に理由があります。ここでは、ビレットの代表的な3つの特長を解説します。
高い強度と耐久性
ビレットは、インゴットを圧延や鍛造することで製造される過程で、内部の金属組織が緻密化されます。これにより、気泡などの内部欠陥が除去され、結晶の粒が整うため、強度、靭性、耐久性が大幅に向上します。この高い信頼性から、大きな負荷がかかる自動車のエンジン部品や、安全性が最優先される航空機の部品などに最適な材料とされています。均一で高品質な内部組織
ビレットは、連続鋳造法などの高度な技術で製造されることにより、全長にわたって成分や組織が均一になります。内部組織が均一であるため、加工後の変形や品質のばらつきが少なく、安定した品質の最終製品を製造することが可能です。この品質の安定性は、精密な寸法や性能が求められる電子部品や医療機器などにおいて非常に重要です。優れた加工性
ビレットは、押出、鍛造、切削など、様々な加工方法に適しています。柔らかく変形させやすいアルミニウムビレットは複雑な形状の形材に、硬く強靭な鉄鋼ビレットは切削加工による精密部品にと、材質と加工方法を組み合わせることで、多種多様な製品を生み出すことができます。この加工のしやすさは、製品設計の自由度を高め、生産効率の向上にも貢献します。【比較】ビレットからの加工(切削・鍛造)と鋳造の違い
製品を製造する際、材料をどのように成形するかは非常に重要です。ここでは、ビレットを加工する「切削」や「鍛造」と、溶かした金属を型に流し込む「鋳造」の違いを比較し、それぞれの選び方を解説します。製造プロセスと内部構造の違い
・ビレットからの加工(切削・鍛造):固体の金属塊であるビレットを起点とします。「切削」はドリルやバイトといった刃物で削り出して形を作ります。一方、「鍛造」はビレットを加熱し、ハンマーやプレスで叩いて成形します。どちらも金属の結晶が整った緻密な組織を持つ点が特長です。・鋳造(キャスト):溶かした金属を砂や金属で作った型に流し込み、冷やし固めて作ります。複雑な形状を一度に作れますが、冷え固まる際に内部に微小な空洞(巣)ができやすく、ビレットからの加工品に比べて強度が劣る場合があります。
強度と精度の比較
・強度:ビレット(鍛造) > ビレット(切削) > 鋳造 の順になります。金属を叩いて鍛える鍛造品が最も強度が高くなります。
・精度:ビレット(切削) > ビレット(鍛造) > 鋳造 の順です。
CNC加工機などで精密に削り出す切削品が最も高い精度を実現できます。
コストと生産量の比較
・コスト(1個あたり):大量生産の場合、鋳造 < ビレット(鍛造) < ビレット(切削) となる傾向があります。鋳造は一度型を作れば大量に生産できるため、単価を抑えられます。一方、ビレットからの切削は加工時間が長く、材料のロスも多いため、コストは高くなりがちです。
・生産量:鋳造 が最も大量生産に向いています。
鍛造や切削は、加工に時間がかかるため、試作品や少量生産に適しています。
最適な用途の選び方
どの製法を選ぶかは、製品に求める性能やコストによって決まります。製法 | ビレット(切削) | ビレット(鍛造) | 鋳造 |
---|---|---|---|
概要 | 金属の塊から削り出す | 金属を叩いて成形 | 溶かした金属を型に流す |
長所 |
・高精度 ・美しい表面仕上げ ・少量から対応可能 |
・最高レベルの強度と靭性 ・信頼性が高い |
・複雑な形状に対応可能 ・大量生産時のコストが安い |
短所 |
・コストが高い ・材料のロスが多い |
・コストが高い ・複雑な形状は作りにくい |
・強度や精度が他に劣る ・内部欠陥のリスクがある |
最適な用途 |
・試作品 ・医療機器 ・外観が重要な装飾部品 ・高精度が求められる部品 |
・航空機の重要保安部品 ・自動車の足回り部品 ・高負荷がかかる工具 |
・自動車のエンジンブロック ・マンホールの蓋 ・デザイン性の高い部品 |
ビレットの主な用途
ビレットの優れた特性は、私たちの身の回りにある様々な製品に活かされています。ここでは、主な産業分野での活用事例を紹介します。自動車産業
自動車産業は、ビレットの最大の需要家の一つです。軽量化による燃費向上と、高い安全性の両立が求められるため、アルミニウムビレットが多用されます。例えば、デザイン性の高いカスタムホイールは、アルミビレットを切削して作られることがあり、「ビレットホイール」と呼ばれます。また、鍛造されたビレットは、エンジンのコンロッドやサスペンションアームなど、高い負荷がかかる重要部品に使用されています。
航空宇宙産業
航空宇宙産業では、ミリグラム単位での軽量化と、極限環境に耐える信頼性が求められます。ここでも、アルミニウム合金やチタン合金のビレットが活躍します。航空機の胴体や翼の構造部材、ジェットエンジンのタービンブレードなど、軽量でありながら最高の強度が要求される部品は、高品質なビレットから鍛造や精密切削によって製造されています。建設・建築分野
建設・建築分野では、鉄鋼ビレットが主役です。ビルや橋梁の骨格となる鉄筋やH形鋼、鋼管などは、鉄鋼ビレットを圧延して作られます。建物の強度と耐久性を支える、まさに縁の下の力持ちと言える存在です。また、アルミニウムビレットから作られるアルミサッシやカーテンウォールは、その軽量さと耐食性から広く普及しています。電子機器・家電
意外に思われるかもしれませんが、スマートフォンやノートパソコンの筐体にも、アルミニウムビレットが使われています。高級感のある金属製のボディは、アルミビレットを精密に削り出して作られることで、薄く、軽く、そして丈夫な構造を実現しています。また、内部の放熱部品(ヒートシンク)などにも、熱伝導性に優れたアルミビレットが利用されています。環境への配慮とビレットの未来

近年、製造業においても環境負荷の低減が大きな課題となっており、ビレットの分野でもサステナビリティを意識した取り組みが進んでいます。
新塊ビレットと再生塊ビレット
ビレットには、ボーキサイトから新たに作られる「新塊(しんかい)ビレット」と、使用済みのアルミ製品や製造工程で出るスクラップをリサイクルして作られる「再生塊(さいせいかい)ビレット」があります。再生塊ビレットは、新塊ビレットを製造する場合と比較して、必要なエネルギーを約97%も削減できるとされています。品質管理技術の向上により、再生塊ビレットでも新塊と遜色のない品質が実現されており、環境負荷低減のためにその利用が拡大しています。リサイクル性とSDGsへの貢献
アルミニウムは、その品質を損なうことなく何度もリサイクルできるため、「リサイクルの王様」とも呼ばれています。ビレット、特に再生塊ビレットの活用を推進することは、省エネルギー、CO2排出量削減、廃棄物の削減に直結し、SDGs(持続可能な開発目標)の目標達成に大きく貢献します。今後、企業の環境に対する姿勢がより重視される中で、再生材の利用はますます重要になっていくでしょう。まとめ
本記事では、ビレットの基本的な意味から製造方法、特長、鋳造や鍛造との違いに至るまで、幅広く解説しました。ビレットは、様々な金属製品の品質と性能を支える重要な中間材料です。その特性を正しく理解し、鋳造や鍛造といった他の製法との違いを把握することで、製品の目的やコストに応じた最適な材料選定が可能になります。この記事で得た知識が、皆様の業務の一助となれば幸いです。
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